農家に見る日本人の気質の特徴

日本人は、こういう気質・性格の特徴がある云々、正しいのか正しくないのかよく分からない論理性に欠ける議論は正直嫌いだ。また、そういう議論はあまりしたくない。しかしながら、今回はご容赦願いたいと思う。なぜなら、日々、農家の方々と接していて、ああ、これが日本人の伝統的な特徴ある気質なんだなと強く思わざるをえないからである。

その気質についてであるが、3つ程あげたいと思う。
1つ目は、謙虚で控えめであること。農家の方々は、実に自分のことを控えめに言う。自分は能力があるのだとか、成功したのだ、みたいなことは言いたがらない。ましてや、これだけ儲かった、稼いだみたいな話は絶対にしない。せいぜい、単価が良くて嬉しかった、程度である。会社の国際化が進展していく中で、自己のプレゼンテーションを正しくすることが求められている現代サラリーマンの感覚からしたら、驚くほど控えめである。

2つめは、人のことを悪くいわないこと。ここが一番驚いたことなのであるが、噂話で人のことを非難するような口調で話をすることは絶対にしない。会社勤めのサラリーマンが、職場の人と飲みに行って、誰かのことの悪く言ったり、非難するのと同じ様に、話をする農家の人は皆無である。また、そのような話の流れは非常に嫌がる。但し、村の和を乱すものに対してはやや例外的である。また、ついでではあるが、村八分というのは、今のようにテレビ等楽しみ方が無かった時代の娯楽、酒のつまみであったらしい。外から見るのと、内から見るのでは大分印象が違うものである。

3つめは、お礼を欠かさないこと。農家社会はそもそも交換経済の社会なのではあるが、その一翼を担っているのがお礼の文化であると思う。とにかく、人から貰ったり、してもらったときのお礼は厚いくらいに返すのである。下手に気軽に農家の人に何かを差し上げたりすると、文字通り倍返しにあう。逆に、お礼を欠かしたり、十分でなかったりすると、悪く言われていることもあるようだ。それが恐ろしくて防衛的にという面も無くはないのであろうが、農家の人々は元々が気前の良い方ばかりだ。その善意から自然と出てきている面の方が強いのだろう。

さて、農家が日本人の気質の特徴をよく表していると思える点について、3点ほどあげてみた。現代の会社生活を営む人には薄れてしまった感覚ばかりだ。むしろ、今の世の中では、あまり歓迎されない資質なのかもしれない。だからこそ余計に、これらの日本人の伝統的で特徴的だと言われる気質が、農家の方々には色濃く残っていることを深く感じるのである。

しかしながら、よく考えてみると、これらの気質は、農家の暮らしの中から、必要があって生まれてきたもののように思える。今の農家社会であっても、同じ集落の人々との付き合いは切りたくても切ることができないものだ。一昔前の交通手段もそれほど発達していない頃などは、尚更、その付き合いは深く濃いものであっただろう。その中で、お互い助け合い、災害時などは協力しあって、村のみんなで生活してきたのだ。その中で、皆が平和で仲良く暮らすために、上記3つの気質は必要不可欠なものであったはずだ。むしろ、日本の農家社会の中で、自然発生的に生まれてきた気質なのである。そして、日本人のほとんどが農民であった時代の名残を引き継いで、現代日本人社会にあっても未だに上記気質を受け継いでいるのであろう。
農家の方々を見ていて、深く納得したのである。

話が長くなるが、あと我慢強いというのも農業所以であると思う。自分が少量多品目で野菜をやっていても、忍耐を日々の作業の中で求められるのに、何かの品目の専業の農家の方々などは、ましてや、米一本の農家の方々などは、どれだけの忍耐を求めらるだろう。更には、機械などなかった時代の田んぼ作業などは、気が遠くなるほどであったはずだ。日本人の我慢強さは、代々引き継いできた資産とも言えるべき、気質なのであろう。