当園の畑は市街地の中にある。そして畑の前は人通りが多い。
すると必然のように起きてしまうのが、通行人に声をかけられるということなのである。
声をかける当の本人は考えたこともないだろうが、農家にとって声をかけられるのは実にいい迷惑なのである。考えてみて欲しい。こちらは一生懸命、時間に追われながら仕事をしているのである。人の仕事の邪魔をする必要があるのか、または、その人の仕事内容について一々尋ねたりする必要があるのだろうか。
声をかけてくるパターンは大体3通りある。それぞれについて考えを述べたい。
1つめは、それは何ですか?と聞いてくるパターン。一言で済ませば、関係ないでしょう、ということであるのだが、100歩譲って興味を持ってもらえるのは素晴らしいことだとしても、人のしている仕事について一々聞いてくるものではないと思う。対象が農作業であるというせいもあるのかも知れないが、もし仮に、あなたがDIYに興味があるとして、道のそばで家を建てている大工がいるとして、同じように質問をするだろうか?または、土木工事に興味があって(そのような人はあまりいないだろうが)道路工事の作業員に声を掛けるだろうか?いや、かけないだろう。でもなぜか農家には声をかける。何故だろう。
それには2つの深層心理が働いているように見える。1つは、農家が社会的に地位が低いと思っていること。農家は貧乏で苦労していて可哀想というイメージを持っているから、声を掛けることに抵抗感がないのではないか。こちらが若いと見ると本当に遠慮が無いこともこの説を支持しているようにさえ思える。憐れまれるのは嫌な気分であるが、見下されていると思えるのはもっと嫌なものだ。
もう1つの心理は、自分も食や農業についてはよく知っている、という自負である。昔は受け答えにまともに答えていた時期もあったが、自分の考えや経験を語りだす輩も少なからずいる。食や農については誰しも少しは精通しているという自負があるだろうが(かつての自分もそうであったことを認める)、少なくとも本職相手にする話ではない。
さて、2つめは、それを売ってもらえますか?というパターンである。これも農家にとっては、非常に迷惑な話である。きっと、売って欲しいと思うほうは、相互利益のオファーを出しているつもりであろうが、これはとんでもない思い込みである。想像もつかないだろうが、その瞬間においては仕事の邪魔をされる、そして長期的には、その1件に応えることによって他の人からも売って下さいという要望が来るようになり、仕事にならなくなる。相互利益どころか、農家側の一方的な損なのである。
さらに言うと、また深層心理を考えてしまうのだが、農家に売って欲しいと声をかける人の考えを翻訳するとこのようになるのではないか。「農家から直接買えば、スーパーで買うよりも安くて良いものが手に入る。」と。安く買えるだろうと値踏みされていると思うのは、なかなか悲しいものである。
最後に、3つめであるが、家庭菜園として使わせて欲しいというパターンである。これはそもそも論外なのであるが、周りに家庭菜園が多いので、そのように希望する人が多いのであろう。なぜ論外かというと、そもそも農家以外の人間が農地を利用することは法律違反であるからだ(自治体が関与しているものを除く)。また、大事な財産である農地を見ず知らずの通り掛かりの人に貸したりするだろうか。そのようなことを一般の人が知らないのは当然であろうが、農家の側から見れば、呆れるような要望なのである。
以上、3パターンを纏めてみたが、結論としては、農家の人を見かけても、声を掛けずに、そっとしておいて欲しいものである。