農業産出額の減少は衰退なのか

日本の農業の衰退を示す一番最初の資料に、農業産出額の減少が挙げられることが多い。
(下記図 出典:農林水産省 農林水産統計)
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ピークの11.7兆円(1984年)に比べると、最近は8.1兆円(2010年)で、実に31%の減少である。
確かに、30%の減少と聞くと、とても大きい。もし日本の農業の規模が過去の70%になってしまったら、それは大変な衰退である。

しかしながら、うわべの数字だけに惑わされず、その減少が何によるものか考えてみると、農業産出額の減少は衰退を意味していないことが分かる。もう一度先ほどのグラフを見てほしい。

このようなときに必要な思考方法は”因数分解”である。総産出額の内訳を見てみると、野菜、果実はほぼ横ばいであるのに対し、米が大きく下げ、畜産も多少減っていることが分かる。原因は、米と畜産の産出額の減少だ。

まず、米であるが、さらに価格要因と数量要因に分けて考えてみる。価格要因は、農業生産額ピーク近辺の米価は18,668円/60kg(玄米、1985年政府買入価格)であったのに対し、最近は、13,000円前後(玄米、2010年産相対取引価格・出荷業者)と、大きく値を下げている(約Δ30%)。数量要因は、米の国民1人当たり米供給量が、78.9kg(1980年)から59.5kg(2010年度)とこちらも大きく下げている(約25%)。これだけ価格・数量共に下がれば、あれだけ米の産出額が大きく減るのもご理解頂けるだろう。ここまでお話しすれば日本の食糧事情に関心のある方ならお気付きだろうが、価格が下がったのは、悪名高かった食管法が廃止され、市場で価格が形成されるようになったからだ。数量が下がったのは、食の多様化に伴い、米の需要が減るという構造変化が起こったためだ。国による価格維持が終わり、需要減という構造変化に伴い、米の産出額は減っているのである。

次に畜産の産出額の減少であるが、生産量は実は増えている(肉類3006千t(1980年)→3169千t(2011年)、卵・乳製品も増)。ではなぜ減っているのかというと、こちらも価格が下がったからである。思い出すことができる方も多いだろう、91年に牛肉の輸入自由化が始まり、牛肉の値段は大分安くなった。思えば、昔は食卓に牛肉などそう並ばなかったものである。畜産物の産出額の減少も、国による価格維持が終わったために、起きたものである。

以上まとめると、農業産出額の減少は、国による価格維持の終焉、需要の構造変化によってもたらされたものであると言える。これは農業の衰退を意味しているのであろうか?全く関係のないことである。敢えて言うならば、過剰な保護から解き放たれた(これは消費者に恩恵をもたらしたことをお忘れなく)、需要の構造変化に対応ができなかった、というところなのであろう。

いずれにしても、農業産出額の減少は農業の衰退を意味しているかのような論調が時折見られるが、事実はそうでないことを広く知って頂ければと思う。