全ては土という迷信

土が良ければ良いものが取れる。裏返していうと、土が良くなければ良いものは取れない。
これらは一般に広く信じられていることだが、必ずしも正しい訳ではない。
それでも園芸雑誌を見れば、土の重要性はどれを見ても必ず書いてあるし、色々な人が土つくりの大切さを説いている。自分はその考えを否定するつもりはないし、土の重要性は良く分かっているつもりである。ただ、土が良くないとという、まるで盲目的な考えが時に見受けられることに否定的なのだ。

土以外の、天候・管理・病害虫等が全て完璧だったとしよう。そのとき土が良ければ、野菜は良く育つのか?そうかもしれないけれど、そうでないこともあるだろう。そもそも、土が良いとはどういうことなのか?土は良好な野菜の生育に必要不可欠な要素なのか?

最後の問いから考えてみよう。土は野菜の生育に必要なのか?少し想像を働かせてみれば直ぐに分かる。答えはNOだ。この世の中には、水耕栽培もあるし、培地で作っている野菜もある。最近はやりの植物工場などはほぼ水耕栽培である。土は野菜の生育には必要ないのだ。土がなくても野菜は立派にできる。

では、野菜の生育に必要なものは何であろう。光、水、温度・・色々思いつくだろうが、この時、正確に考えるためにIE(インダストリアルエンジニアリング)的な考えが非常に参考になる。野菜の収穫というアウトプットを得るために、生育中の野菜に必要なインプットは一体何なのか?インプットという考え方は非常に重要である。なぜなら、それこそが因果関係を決定しているからだ。

その野菜の生育の原因(インプット)であるが、主なところで光、水、温度、空気、養分になるのではないかと思う。土は全く関係ないのだ。改めて言われると、戸惑いを感じられる方もいらっしゃるかもしれないが、それが事実だ。では土がどのように関係しているのかというと、水、空気、養分を供給する環境を提供している以外に他ならない。あくまで間接的に影響を及ぼしているのが土なのだ。だから、土が良ければというのは、間違ってはいないが、論理的には正しくはない。土が良ければ、水、空気、養分の供給が上手くいくことがあるかもしれない。これが論理的に正しい解だ。

ここまで来れば、前の方で立てたもう1つの問い、土が良いとはどういうことなのか?に対する解が見えてくる。良い土とは、水、空気、養分の供給を上手く行うことの出来る土のことになろう。しかし、具体的に考えていくと、この”良さ”の評価が結構難しい。

正直、水、空気の供給は、普通の畑作地ならさほど問題になることは無い。もちろん、よく言われる団粒構造が発達した土は保水・排水・通気性が良い、というのは真実ではあろうが。また、水の供給は特に天候に左右される。実は、土の良さは重大な問題にはならない。

残ったもう1つの養分の供給であるが、これも本来は肥料の役割である。もちろん、土に吸着された養分が少しずつ放出され、野菜に利用されはする。しかし、ここでも土の良さが決定的要因になるわけではない。

ここまで言ってしまうと、「何だ、では土などどうでもいいではないか」となりそうだが、実はそれくらいが正しいのではないかと思う。もちろん、土の持っている物理・化学・生物的な緩衝能力を否定するものではない。それらの能力をフルに発揮できてこそ、いい作物ができるのは確かだ。ただ、土は過大評価されすぎなのだ。

土、と聞くと何か神秘的で愛執を湧かせるものに感じられる。それはそれでいいと思う。人として自然な感情だと思う。ただ、土の影響を必要以上に美化しているのには、疑問に思う。その上で、土にできる限りのことをしてやれればいいと思う。