低い食料自給率は問題なのか-その1

連載「日本の農業を想う」4回目。
今回から、複数回に分けて、「低い食料自給率は問題なのか」について論じたいと思う。
低い食料自給率は日本の農業の重要な問題の1つに必ず取り上げられるテーマであると思うが、結論から言うと、全く問題のないことだと思う。いやむしろ、なぜこの様なことを問題として取り上げるのか、理解に苦しむところである。突っ込みどころが満載すぎるので、複数回に分けて、書いて行きたいと思う。

まず今回は、食料自給率が仮に低いとして、それを問題視することが適切なのか?というそもそもの前提論のようなところから始めたいと思う。食料自給率が低いことを問題とするのは適切なのか?

恐らくほとんどの人は適切であると考えるだろう。日本の食料自給率はカロリーベースで約40%。世界で動乱や騒動が起きれば、日本人は飢えて死ぬかのようなイメージさえ湧いてくる。もう小学生時代から埋め込まれた考えだ。疑うことさえしないだろう。2007年~2008年に起きた世界食料価格危機以降、食糧安全保障などという言葉もよく使われるようになった。国際舞台で翻弄されないためにも食料自給率を高く維持することが大事だと思う考えが出てくるのも不思議ではない。

しかしながらである、遡って農産物を作るために必要な肥料、燃料はどうであろうか?主要な肥料、チッソ・リン酸・カリでるが、チッソはほぼ全量輸入の天然ガスを使って空気中の窒素を合成して作られている。リン酸、カリについては、鉱石をやはり全面的に輸入に頼っている。また、トラクターを動かすガソリン、農産物を運ぶトラックを動かす軽油も、元の石油はほぼ全量輸入である。さらに言うと、一般にはあまり知られていないが、野菜の種のほとんどは海外産である。このように農産物の原燃料がほぼ全量輸入であるのに、なぜそれらのアウトプットである、農産物だけを取り出して自給率が低いことをわざわざ問題だと言う必要性があるのだろうか。

さらに、現在、食料(と飼料)の主な輸入元である国は、アメリカやオーストラリアなどの日本の友好国からである。一方、石油や鉱石などは政情不安定な国からの輸入が多い。石油の輸入がストップすれば、トラクターやコンバインを動かせずに、農産物など作れないのである。また、物流もストップする。このような状況が生まれたときの方が、よっぽど社会的な混乱も大きいだろうし、餓死者もでるのではないだろうか?食料自給率が低いと問題にする前に、もっと重要な問題があるのではないだろうか?

食料自給率が低くて問題と言うのは、全体像からごく一部を切り取ってきて問題としている極めて一面的な主張である。全体を的確に捉え、問題と考えられることに優先順位をつければ、他にもっと大事なことはいくらでもあるはずである。食料自給率が(仮に低いとして)低いこと自体を問題とすることは適切ではない。

次回以降は、食料自給率の”低さ”自体の話について触れていきたいと思う。