生き方としての農業、ビジネスとしての農業

農業を始める動機は、主として、生き方として農業を目指す場合と、ビジネスとして農業を目指す場合に、大きく分かれると思う。なお、自分は後者を目指している、と思っていた。それは、このブログ初回に記したように、農業はビジネスチャンスと思っていたからである。
しかしながら、最近、自分は必ずしもそうではないのではと思うようになった。また同時に、生き方として目指す農業と、ビジネスとして目指す農業は、そんなにきれいに分かれるものでないことにも気がついた。
そこで今回、「農業で目指すもの」という古くて新しいこの問題を、改めて考え直し、整理してみたいと思う。

まずそもそも、そのように考えるようになったきっかけなのであるが、農業を始めてそれなりの年月が過ぎ、見聞が広まる中で、経営的に自分よりはるかに大きく、短期間で、成功している事例を数多く見聞きしてきたからである。そして逆に自身を省みたとき、自分は変わらず小規模で、ビジネスとして間違っていたのではないかと、疑問を持つようになった。
この差はどこから生まれたのだろう。自分の何が悪かったのか/不足していたのか。逆に、大きく成功している事例では、何が違い、何が良かったのだろう。

ビジネスとして農業の正解と不正解の差を考える中で、大きく成功している事例で共通していそうな決定要因が2つ見えてきた。
1つは、”資本の集中投下”。資金調達してでも、しっかり投資をしている。栽培施設か農業機械。更に、ある作物専用である場合も多い。言い換えれば、ピンポイントで大規模な”資本の集中投下”をしている。当然、その様になれば、生産効率は上がり、経営としても上手く行きやすくなるのだろう。
あともう1つは、”事業拡大可能な環境”で経営していること。簡単に言うと、都市近郊でない場所。農業の売上は、やはり面積に大きく制限される。売上の上限の殻を破ってさらに大きくなるには、面積を増やすしかない。そうなると、より大規模に経営発展可能な場所であることは必須であろう。

そう思うと、自分の場合、そのどちらにもあてはまらない。投資はなるべくしないスタンスで長らくきた。その上、少量多品目という、資本の集中投下の効果の出にくい経営を行ってきた。また、都市近郊で、なかなか規模拡大が難しい状況にあった。とは言え、結果論としては、ビジネスとしては間違っていた、と言わざるを得ない。
資本の投下が不十分であったことは、最近その考えを改め、機械装備を充実させ、経営が上向いたことで、改めて再認識した。少量多品目経営については、最近、品目により選択的拡大をするようになって、その生産効率の良さに驚いた。
あと、就農地の選択については、良くなかったかどうかを判断することは正直難しい。都内から近く、有利販売が出来る良い立地であるからである。特に就農当初の経営成立にはプラスに働いたはずであろう。とは言え、規模拡大という点で、良い立地でないことは確かである。

ここまで考えたとき、自分はビジネスとしての農業を志向していたにも関わらず、意外とそうでなかったと気付かされた。そもそも、ビジネスとして不正解であったのは、ビジネス上の選択を間違えたと言うより、それ以前の問題として、生き方として農業の仕方の一部を選択していたから、と言う方が適切なのかもしれない。

生き方として農業を志すというのは、今となっては皮肉のようであるが、自分は非常に否定的に思ってきた。生き方としての農業とは、簡単に想像がつくところで、”農業のある暮らしをしたい”、”田舎暮らしをしたい”、”会社勤めはできないけれども、農業ならできるかもしれない”、などの考えがある。しかしながらこれらは、農業の現実を知らない人の、ただの妄想に過ぎない。以前のブログに書いたように、農業で生きるには、収入面で、サラリーマンよりずっと強いプレッシャーに晒され、ずっと強い精神力を求められる。生き方として農業を行う人生があってもいいとは思うが、経済性が伴って初めて、農業のある生き方ができる。だから、自分は生き方として農業を志したいなど、微塵も思ったことは無かった。

しかしながら、結論から言えば、それでも自身の農業のやり方に、自分の生き方の志向を織り交ぜてきたと言える。投資はするとしても、少量多品目の経営を止めたいと思うだろうか?いや、日々の食卓を彩る数多くの野菜を作るのを止めはしないだろう。都市近郊経営を止めて、地方に移住するだろうか?いや、自分は、都市の便利で機会溢れる暮らしを捨てることはしないだろう。自分の農業経営の幾つかの条件は、ビジネス性より、生き方を優先していた。

そしてここに、生き方として目指す農業と、ビジネスとして目指す農業が、はっきり相反する考えではなく、その境は連続的である、とも気付かされたのである。そして、農業を実際に行う際には、生き方として目指す農業とビジネスとして目指す農業の間の、どこかを選択することになるのであろう。そこには絶対的な解は無い。解は自身で導き出すしかない。但し、勿論、両立が必要なのは間違いない。どちらか一方が欠けても、農業の持続性が欠けてしまう。

そして再び自身の農業の目指すところを省みると、やはり創業時と変わるところが無い。あくまでも経営理念「食卓に 香り豊かな感動を 味わい深い歓びを」に忠実に、数多くの野菜を作り、お客様にご提供していきたい。その上で、他の生き方の考えと織り交ぜながら、現状で出来ることを出来る限り行い、それでもその可能性は無限大であるのだから、その可能性を追い求め、ビジネスとしての成功も追い求めて行けるはずだ。