登山と農業の良い関係

学生時代から、農業を始めるまで、10年以上に渡って山に登り続けてきた。そしてその事が今の仕事に大いに役立っている。元々アウトドア派であったから必然の事のようにも思えるが、むしろ偶然であると思っている。そこで、今回は、登山の経験によって農業に生かされたことについて纏めてみたいと思う。

まず、何よりも体力。登山を通じて得ることの出来た体力は何にも代え難い。通常の現代人の体力で農業は務まらない。人一倍、頑強な肉体を持っていることは、農業を行う上で絶対に欠かすことの出来ない必要条件だと思う。平凡なサラリーマン生活を送ってきた人が、思いつきで農業を始めるなんて、だから危険なことなのだ。自分は、ピークの時には40kg近くの荷物を担いで急斜面を駆け上がっても、息が切れることがなかった。今でも同年代の人に比べれば、はるかに力は強いほうだと思う。周りの農家の方を見ていても、力強い人ばかりだ。

次に耐久力。厳しい天候に対しての耐久力である。真夏の炎天下、極寒の風雨の中、雪の中、氷の上で作業をしなければならない時が普通にある。そんなとき、昔、山で経験したことがなかったら、きっと耐えられないだろうなと思うのである。灼熱の乾ききった登山道を上り下りしたこと、全身ずぶ濡れ泥だらけになりながら雨中の藪をかき分け進んだこと(山に行けば大概雨である)、吹雪の深い雪の中を埋もれながら進んだこと、そんなことしなくても良いのにと思うようなことを昔していたことが、今、厳しい天気に直面しても何とも思わないで済む糧となっている。

そして、技術力。ロープ、火の扱いは正にそのまま使っている。天気の読み方もそうだ。服装や体調のこまめな管理も非常に重要である。例えば、冬山では汗をかかないよう体温調節するのが基本であるが(汗をかくと命にかかわる)、畑でも余計な汗をかかないように服の管理しないと、痛い目を見る。他にも、バテないよう、作業中にきちんと水分とエネルギーを補給するのも重要なテクニックだ。

あと、意外で面白いと思うのが、野生の勘。山に登ると言っても、普通に登山道を行くわけでなく、春には山菜を摘み、夏には魚を釣り、秋には茸を採りながら、沢沿いに山を登る、沢登りと呼ばれる山登りを行っていた。そんな中、目敏く、山菜や茸を見つけられるようになった。自分の所属する山の会で、目が悪いのにきのこをやたら見つける人が、キノコ視力は1.5と言われているのを聞いて、思わず笑ってしまったが、でもそれくらいの野生の勘を持って、野菜に臨むことも大事なのだ。同じ収穫には変わらない。パッ、パッ、と作物を見つけなければいけないのだ。また時には、収穫だけでなく、虫や病気の早期発見に役立つ。

こう考えてみると、随分色々と昔の登山の経験が生きているのだと思う。だからこそ逆に、農業を始めようと思えたのかもしれない。最近では、山から随分と遠ざかってしまったが、いつかはまた山に帰りたいと思っている。そのとき、一体自分はどのように感じるのだろうかと今から楽しみに考えている。今度は、農業が登山にどのように良い関係になるのだろうかと思う。月明かりの中、作業をしていると、月明かりを頼りに山を下りたことを思い出し、そう思う。

自分の所属する山の会
グループ沢胡桃 ・・沢登り(と雪山)に特化した社会人サークルです。
http://www.sawagurumi.org/