「日本農業の真実」

これは本のタイトルである。
この本を見つけたときはそのタイトルに少々驚いたが、その辺の適当な書き様の本とは全く違う、現名古屋大学農学部教授の生源寺眞一先生が、学問的な見地から公平かつ論理的に、実に良く纏めて書かれている素晴らしい、ぜひお勧めしたい本である。

生源寺先生は、今は名古屋大学にいらっしゃるが、その前に長く東大農学部で教授を務められていた。また、東大農学部長も務められ、政府の農業関係の会議などで座長も務められた方である。そして、実は自分自身も学生時代、生源寺先生の授業を受けたことがある。いや、正確に言うと、同じ農学部でも農業経済と農業土木で全く専攻が違うにもかかわらず、自分が受けられる範囲で生源寺先生の授業は全て受けた、というのが正しい。周りは、農業経済専攻の学生しかいなかった。

それだけ生源寺先生の授業は大変面白かった。まず考えに偏りがなく、公平・冷静に、そしてきちんと筋の通るお話しをされるのである。また、語り口はソフトでいながら、ユーモアなセンスで意見や体験談も交え、何より分かり易い。本書も固い内容でありながら、実に面白く、容易に読める。読んでいて昔の授業を思い出すようだった。また、生源寺先生のような方が、政府の仕事を数多く引き受けられているのも、改めてよく分かった。

この本では、冷静にこれまでの農政の歴史を紐解き、そして今後の日本の農業のあるべき姿にまで触れられている。自分は農業を始めようと思ったとき、今自分がしている方法以外で、農業をどうやっていけば良いのか思いつかなかった。別の言い方をすると、日本の農業がどうあるべきなのか、どう変わっていくべきなのか、正直分からなかった。しかし、本書により重大なヒントを得られたような気がする。自由主義的な考え方に重きを置く自分に比べると、先生は共同体主義的な考え方をされているが、それでも特定の考えに偏らず、結論まで導き出している。マスコミ報道の単なる批判とは全く違う。やはり、生源寺先生は素晴らしい先生だ。そして、本書は実に痛快な本だ。

書かれたのが民主党政権下時代のものなので、書き口がやや古くなってしまったところはあるが、それでも日本の農業の向くべき姿が本書から変わっているところはどこもない。
ぜひご一読をお勧めしたい良書である。家の本棚にも並べておこう。