和食の裏に見える農業

和食は塩分が多い。
言わずと知れたことではあるが、その理由が何故か、的確な説明を聞いた覚えがない。
塩分が多いのは和食だからと、意味不明な逆転の因果関係を聞いたことが過去多かっただろうか。保存食や漬物に塩を用いていたから、という説明もあるようだが、
世界の食と比べた中で、なぜ和食が、という疑問に十分答えているのだろうか。

そのようなことは過去考えもしなかったのではあるが、日々の農作業を通じて、ある日突然、妙に納得がいく答えを得ることができてしまった。

夏の暑い時に、畑仕事をしているときにかく汗の量は尋常でない。朝のまだ暗くて涼しい(近年は涼しくないが)時間帯であっても、湿気がものすごく、30分もすれば、シャワーを浴びたのではないかと思われる程、汗をかくのである。それに応じて、大量の水を飲むのであるが、これがまた大変不思議なことに、水を飲み続けると、水分を摂っているにもかかわらず、途中から汗が出なくなるのである。そして何となく体が重くなる。しかしながら、ある日発見したのであるが、塩分を補給しながら水分を摂り続けると、汗が止まるのを防ぐことができ、体が重くなるのも防ぐことができるのである。

塩分の補給が大事、塩分は農作業をするには多く摂らないといけない、この考えに至ったとき、和食に塩分が多い理由が分かった気がした。日本の気候の中で、農作業をするのに、必要に迫られて、塩分を食事で多く摂るようになったのではないか。そして、和食の文化が、日本の農業を背景として生まれてきていることを思えば、和食に塩分が多く含まれるようになったとしても、自然なことなのではないかと思う。

その文脈で考えると、伝統的な作りの梅干しが、なぜそれほど塩分濃度が高いのか、よく分かるのである。実際、自分は毎日、昔ながらの梅干しを食べながら仕事をしているのだが、塩分補給に大変助かるのである。自分だけの意見ではないのだが、梅干しは本当に農作業の伴である。

話は逸れるが、学生時代にフランス語の先生が、フランス人は朝食に、起きてすぐ活動できるよう血糖値を上げるため、甘い朝食と取る、と言われていた。また、対してイギリス人は、しょっぱい朝食をとる、世界には甘い朝食としょっぱい朝食があり、日本はしょっぱい朝食ですね、とも言われていた。これもまた何ともなしに聞いていたのではあるが、農作業に従事するようになってから気付くことがあった。自分は長年、甘い朝食派であったのだが、起きてしばらくすると、甘いものよりしょっぱいものが欲しくなるのである。起きてすぐ農作業を行い、一仕事済んだ後に取る朝食はしょっぱいものが適しているのであろう。日本の朝食が伝統的にしょっぱいのは、農業所以なのであろうか。イギリスの朝食については、朝の散歩の習慣が影響?しているのか、こちらについては全く見当がつかない。

和食の裏に農業の影響を見たような気がした。そして納得するところがあった。蛇足にはなるが、和食に塩分が多いと悪く言われるかのようになったのは、現代日本人の多くが農業から離れて、生活スタイルが変わり、塩分を必要としなくなったからだけなのではないか。梅干しが今では低塩分のものしか見ないようになったのは、本当にその表れでしかないように思う。

あまり根拠のない議論の展開とはなってしまったのではあるが、生理学あるいは栄養学の観点から、いつか自説が検討されれば、と願っている。