低い食料自給率は問題なのか-その2

食料自給率のテーマ2回目の今日は、その”低い”とされる結果が出てくる計算方法について論じてみたいと思う。特に気にもしなければ、自給率40%とよく言われる数字だけが頭に入って、無用な危機感を抱くだけなのであるが、その一歩奥の計算方法を見てみると、とんでもなく不適切な計算結果の産物であることがよく分かる。

さて、まずその食料自給率の計算方法なのであるが、
=国内で生産されて流通した(国産+輸出)農産物のカロリー/国内で流通した(国産+輸入-輸出)農産物のカロリー
である。
一見すると、適切な計算方法のように見えるのであるが、この計算方法は、現実をかなり不適切にしか反映しない。

1.まず、そもそもカロリーベースでの計算であること。現在の日本の農業の特徴は労働集約的で、カロリーの高くない野菜・果物などの青果物の比率が高い。逆に、カロリーの高い穀物(小麦)、油脂、飼料(肉のカロリーに反映される)は、土地利用型で日本ではほぼ作られていない。そのような前提の中で、カロリーで計算すれば、自給率が低く出るのは当然であろう。参考までに金額ベースでの自給率は66%(H23)。つまり、日本は、単価の高い野菜や果物など、高付加価値品を生産する農業に既になっているのだ。そのような形態の農業なら、カロリーベースではなく、金額ベースで計らないと、農業の実力を表すには不適切になってしまうのではないだろうか。

2.次に、流通ベースで計算されていること。流通したもの=人が食べたもの、ではない。計算式の分母に相当する国内総流通量は、国民1人あたり2436Kcal(H23)である。ここでお気付きになられるだろうが、今、日本人はそんなに食べてはいない。今の日本人の1人あたり摂取カロリー量は1840Kcal(H23)、なんと1/4もの差があるのである。ここには、各流通段階でのロスや食べ残しが大量にあることを意味している。この飽食時代の無駄ばかり出している時代に、流通ベースで計れば当然、自給率が低くなるのも当然である。逆に言うと、ロスがゼロになることはないのであろうが、仮に非常事態となって、無駄なく消費されるようになったとしたら、自給率は一気に51%まで上昇する。

3.流通ベースで計算されていること第2弾。日本の農家(ここでは、自給的農家も含む)250万戸の自家消費分は、流通に乗っていないので、計算に含まれていないということである。日本の全世帯の5%を占める人達の結構な分にもかかわらずである。さらに言うと、自家消費するだけでなく、親戚や近所に出回る分も少なくないだろう。まあそこまでは言わないまでも、農家の自家消費分までのことを考えても、この分も計算に加味すれば、5%近くは自給率向上に貢献するだろう。

4.流通ベースで計算されていること第3弾。一般には知られていない真実であるが、野菜農家は3割近くは、売り物にならないとして、収穫物を捨てている。十分美味しく食べれるのに、傷がある、形が悪い、見た目が悪い、というたったそれだけの理由で、である。果物については恐らくもっとその率は高いだろう。この分も当然、自給率の計算には含まれようがない。この辺の廃棄されているものが有効利用されるようになったら、自給率は結構改善されるのではないかと思う。

ざっと挙げて、計算方法についての不適切な点は以上のようになる。しかし、たったこれだけの点を見てもらっただけでも、いかに今の自給率の計算方法が不適切なのかよくお分かり頂けるだろう。逆に言うと、計算方法を変えれば、いかに自給率が改善する可能性があるのかがお分かり頂けるだろう。今の自給率の計算法は、決して間違ってはいないが、現実をほとんど捻じ曲げて解釈していると言っても良いくらいの、ある一面の一面しか表してはいない。自給率の表し方はもっと他にも色々あるはずである。その中で、一番低く出そうな数字が使われているのが現実である。

間違っても、現在の低い日本の自給率=有事の際は食べものが無くなる、ということは意味しないことを正しく理解しておく必要はあるだろう。

次回は、自給率シリーズ続けて、なぜこんなにも自給率が低く表れるのか、消費サイドの事情から見てみたいと思う。